
こんにちは!現役の構造設計者であり、株式会社ストラボ代表の小林です。
今回のストラボ通信では、「実務の課題解決に直結する構造設計の研修はあるのか?」というテーマについてお話ししたいと思います。
「もっと早く、確実にスキルアップしたい」
「若手教育がOJTだけでは限界だ」
このような悩みを抱えている人が思いつく解決方法の候補に「研修」があると思います。
研修とは、組織の成長を目的とし、業務に必要なスキル・知識の習得に加えて、品質や効率の向上を図るための教育プログラムを意味します。
確かに、構造設計においても「研修」という名の付くものはあります。しかし、私は構造設計者の立場でいくつかの研修に参加してきましたが、既存の構造設計研修にどれほど即効性があり、本当に構造設計者の成長に貢献できているのか、懐疑的でした。
今回は、この既存の研修の在り方、そして構造設計者の育成・成長に本当に求められている教育の形について、私の考えをお話しします。
構造設計事務所が抱える「教育」の大きな課題
私が参加した研修だと、行政の建物や有名建築の構造設計者を招き、その「構造計画のこだわり」や「技術的な挑戦」について語られることが多かった印象です。一流の設計者の話は良い刺激になりますし、設計者として「素晴らしい」と感じられることは確かです。
ほかには、以下のような研修もありました。中には、協賛メーカーの商品紹介ありきと思われる研修も。
・実際の物件における技術的な指針の解説
・構造計算ソフトのプログラムのハウツー
しかし、私の経験からすると、中小規模の構造設計事務所が主に請け負う「民間事業」の参考になる情報は、ほとんど得られませんでした。当時の私の主な設計業務は民間の建築物だったのですが、「経済設計」をはじめとした実務に活かせる収穫を得られたかというと……そうでない研修が多かった気がします。
なぜ、既存の研修では、多くの構造設計者が業務で直面する「経済設計」について語られないのでしょうか?
行き着いた結論は、行政の建物やシンボル的建物は民間事業に比べて、
- 汎用性のない独自技術や先進技術が投入されるため価格競争原理が働きにくい
- コストよりも意匠性が優先されやすい
つまり、そもそも経済設計とは親和性がないというということです。
対して民間事業の構造設計では、安全性を担保しつつ、他社競合がいる中でコストを削減することが求められ、それが構造設計者の評価と価値に直結します。しかし、既存の研修は、このシビアな経済合理性を前提としておらず、「予算は潤沢にある前提での設計論」に終始する、もしくは、根本的な部分での座学つまり計算手法や設計方針の考え方は教えてくれても、経済的な要因となる設計手法にフォーカスしていません。
結果として「日常的に仕事の現場で役に立つような経済設計を研鑽したい」という、多くの構造設計者の切実なニーズは置き去りにされてしまっているのではないでしょうか。
【経済設計で耐震性は低くなる?】
そもそも、構造設計者としての「耐震性の確保(人命保護)」と「経済設計」を、相容れない逆の思想だと考えている人が多いということなのかもしれない。過去の耐震偽装問題から、多くの一般の人は「経済設計をするために構造躯体を減らす=耐震性の減少」という認識を持っていますが、実際はそうではないんですよね。
ストラボが提唱する「経済設計」とは、耐震性を真に理解し、安全性をあらゆる知見や経験から担保した上で無駄な贅肉(構造躯体)を削ぎ落していくという考え方なんです。こういう「正しい経済設計の形」を広げていきたいなぁ。
既存の研修が取り上げない「コストの無駄を削減するための設計者判断」
構造設計者が図面を提出する際、必ず建築確認検査を受けます。ここで確認されるのは、建築物が建築基準法に適合しているかどうかのみです。適合していれば、安全性がぎりぎりであっても過剰であっても合格となります。
日本の建築確認審査機関は、この「法令適合性」をクリアしさえすれば建築許可が降ります。しかし、民間事業の経済設計において、過剰に安全側に寄ることは構造躯体の無駄、すなわちコストアップに繋がるため、依頼者の不利益になります。
この無駄をいかに削減できるかは、法令が明確に判断できないグレーゾーンの選択肢から最適な解を選択する「設計者判断」にかかっています。この設計者判断こそが、構造設計者がプロフェッショナルとして最も価値を発揮する領域であり、既存の研修に不足している部分だと考えています。
しかし、構造設計者向けの研修を、この「法令適合性」と「経済合理性」の間に存在する「コストの無駄」に焦点を当てた内容で開催することは、難しいでしょう。
なぜなら、経済合理性を追求した設計は、大量の設計実績と、その結果に対する継続的なフィードバックに基づいた、汎用的な判断基準と計算手法を確立する必要があるからです。これは、一般的な研修団体が容易に構築・情報提供できる領域ではないのです。
「手札の少なさ」が若手設計者と組織の成長を阻害する
では、どうすればこの「設計者判断」の能力を向上させられるのでしょうか?
それは、設計の経験と実績の量から身についた選択肢のストック、すなわち「手札」をどれだけ持っているかによって決まります。
私の体感として、例えば一人事務所では年間10棟程度をこなすのが限界です。これでは、設計者判断に必要とする「手札」を増やすには、経験量が圧倒的に不足しています。
さらに、より良い設計へのトライアンドエラーを試みようとしても、成功の確信が持てなければ設計者は守りに入り、結局はベストではない過去の設計に固執した設計をせざるをえなくなります。
それ以上の品質(安全性と経済性の両立)を追求しようと思っても、手札が少ない設計者には理想を「実現できない」のです。
今、構造設計業界に必要なのは、この「手札の不足」を解消し、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の質を劇的に高める「インプットとアウトプットの教育循環システム」だと考えています。
この仕組みこそが、若手構造設計者の教育期間を短縮し、事務所全体の品質を向上させる鍵となるはずです。
1万件の実績を凝縮!ストラボschoolで適切な設計者判断を身につけよう
この「教育循環システム」を具現化するために開発したのが、私がストラボとしてお届けする「ストラボschool」です。
これは単なる教科書的な知識を教える資格学校とは一線を画します。私がさくら構造(株)に在籍し、若手教育の最前線にいた経験から「大手の構造設計事務所でさえ十分ではなかった教育体制をどう構築するか」を追求し、実務で結果を出すためのノウハウを体系化しました。
私自身の「構造設計業界全体のレベルを底上げしたい」という強い想いを込めて開発しています。
ストラボschoolで開発している講座動画をはじめとしたあらゆるコンテンツは、開発に全面協力いただいているさくら構造株式会社の総設計実績約1万件をもとに構築されます。
※本記事執筆時点での件数
そのため、習得できる知識は、安全性、工学的判断基準、施工性、経済性などの信頼性が高い、実務直結のノウハウです。経済的合理性や設計における判断軸、そのうえで下される設計者判断が身に付けられます。
ストラボschoolの活用方法は様々です。
たとえば・・・
若手設計者
⇒自身のスキルアップのために自習素材として活用し、実務へ向かう確かな自信を育む。
構造設計事務所
⇒新入社員教育を外部リソース化するツールとして、社内の若手構造設計者のスキル底上げのために活用する。
「ストラボschool」の目的は、「戦力化までの時間を短縮する」ことです。
JSCA(日本構造技術者協会)では、構造設計歴6か月以上6年未満の構造設計者を対象として「初級編」「基礎演習編」といった研修会が開催されていますが、少ない開催頻度と短い研修期間から、日常的な業務に伴走するような活用は難しいでしょう。
新人設計者がOJTと並行してストラボschoolを受講することで、手が止まらずに一人で業務を推進でき、実際の経験以上の設計者判断の軸を早期に養うことができるようになります。
ストラボschoolは2026年に本格スタートします。いち早くこの新しい仕組みを体験していただくため、無料アカウント登録をしていただいた方には、リリース直後にお知らせします。
まだご登録いただいていない方は、ぜひ下記よりご登録ください。
執筆者

小林 玄彦(こばやし はるひこ)
株式会社ストラボ 代表取締役
オリジナル工法の開発やブランディングにも注力し、創業期から同社の規模拡大に貢献。
2024年に株式会社ストラボを創業し、構造設計者のための成長支援プラットフォーム「ストラボ」をローンチ。
構造設計者の社会的価値を最大化することを使命とし、構造設計業界や組織、そこで働く社員が価値観を共有し、他社との差別化を図ることで、構造設計者の価値を誇りをもって伝えられるようサポートしている。