ツールに頼る前に見直すべき「構造設計の非効率」4つの正体

「BIMを導入すれば」「最新のプログラムがあれば」……。

業界ではDXの必要性が叫ばれていますが、現場の構造設計者の実感はどうでしょうか。高機能なツールを導入したはずなのに、相変わらず「何度も計算をやり直し」、意匠変更のたびに「入力データの修正」に追われている。そんな光景は珍しくありません。

実は、構造設計における「非効率」の正体は、ツールの不足ではなく、設計者の「思考のプロセス」と「コミュニケーションの順序」にあります。

構造設計歴20年以上のベテラン構造設計者の教訓をヒントに、お金をかけずに今日から変えられる「真の効率化」についてお伝えします。

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1. 計算を流す前に「断面をにらむ」

多くの若手設計者が陥るのが、計算ソフトのデータ作成そのものに時間を費やしてしまう「解析ループ」です。プランが変わるたびに入力内容を書き換え、また計算を流し直す。この繰り返しが業務を圧迫しています。
効率化の鍵は、プログラムを動かす前段階の「アタリ」にあります。アタリをつけるためには次のような方法をおすすめします。

1.1 スケッチ10分で「モデルの異常」を見抜くための「正解」を描く

PCを開く前に、構造計画図を書いて荷重の流れをイメージすることから始めます。
いきなりソフトを叩くのではなく、手計算や略算(d/Lや概算応力)に基づき、あらかじめ「断面をにらんで(予測して)」おくことが重要です。

自分の手で断面サイズや壁配置を書き込む作業は、自分なりの「正解モデル」を作る工程です。これがあるからこそ、後の工程でソフトが出した数値が「妥当かどうか」を判断できるようになります。

自分で予測ができていれば、計算結果が異常な数値になった際、即座に「入力ミス」や「モデル化の不備」に気づけます。つまり、原因探しに何時間も費やす無駄がなくなります。

ストラボ小林
ストラボ小林
最近はPCもスペックがいいから、何も考えずに『とりあえず計算を流す』人が多いと感じる。NGが出たら断面を上げて、また流し直す。それは設計じゃなくて単なる『作業』。昔は計算を一回流すのに、ものすごく時間がかかった。大きい案件では2日かかることもあったから、入力前に死ぬほど考えました。実はその『計算結果を予見する力』こそが、手戻りを最小限にする最大の武器だったんです。

2. 意匠担当への「先制クギ刺し」で手戻りを封じる

構造設計において、最もコントロールが難しく、かつ最大の非効率を生むのが「意匠変更」です。しかし、変更が来てから溜息をつくのは、プロの立ち回りとしては後手に回っているといえます。

2.1 構造制約という名の「防波堤」を築く

意匠設計が進み、間取りが固まりきった段階で「この壁は取れません」「柱が太くなります」と伝えるのは、構造設計者にとって最悪の手戻りを生むパターンです。プランが流動的な初期段階こそ、構造設計者が主導権を握るべきです。

手戻りを防ぐためには、打ち合わせの場で動かしてはいけない「核」を明確に提示する必要があります。

「このスパンでこの壁を動かすと、剛性バランスが崩れてルート3でも計算が成立しなくなります。」
「このラインに柱があれば梁せいを抑えられます。」

このように、根拠を示しつつ意匠プランに「構造のルール」を組み込むことで、意匠側が最初から構造的に無理のないプランを描いてくれるように誘導できます。

意匠設計者が「ここは動かせない」と認識した状態でプランを練れば、致命的な手戻りは自然と減ります。誤解を恐れないで言うと、自分自身の作業時間を守るために、先に相手を縛るのです。

ストラボ小林
ストラボ小林
効率が悪い人は、意匠からの要望を鵜呑みにして、まずは持ち帰り検討しようとする。そして、後から『やっぱり断面が入りませんでした』と言う。効率が良い構造設計者は、打ち合わせの段階で先に『ノー』を明確にします。意匠に要望の優先順位を確認して、『ここをこうするんだったら、ここはこのように変更になります』というように、落としどころ=ゴールイメージを事前に共有することが大事。

3. 現場からの「質疑」を減らす逆算の設計

設計図を納品して業務終了、ではありません。現場が始まってから届く質疑(RFI)の対応に追われ、新しい物件の設計が進まない……。これも非効率な仕事といえます。

現場を無視した「独りよがりな設計」は手戻りとして自分に返ってきます。限界まで断面を絞り込み、複雑な配筋を強いる設計は、計算上は「美しい」かもしれません。しかし、現場で「収まらない」と判断されれば、修正検討という追加業務が発生します。

3.1 「標準化」が自分を楽にする

効率的な構造設計者が描く設計図は、現場に「余計な考え事」をさせません。誰が組んでも間違えないものを納品するように心がけているからです。現場を迷わせない図面を描くことは、結果として質疑に追われる時間を減らすことにつながります。

現場で「物理的に組めない」ことが発覚した瞬間、工事は止まり、設計者の元には質疑の電話が押し寄せます。そこから「どう補強してやり直すか」という追加検討に数時間を費やす。つまり、効率が悪い人は、自分の設計のせいで、自分の首を絞めているのです。

ストラボ小林
ストラボ小林
昔は1mmの配筋間隔を攻めるのが格好いいと思ってたけど、現場から電話が来て対応に追われたら本末転倒。設計と同じように、施工にもうまい・下手があり、誤差もあります。いくら机上では納まっていても現場で施工できなくては設計の意味がない。現場を迷わせない図面を描けば、自分の電話も鳴らなくなります。

4. 「自作シート」は思考の結晶!エクセルでも十分役立つ

最新のBIM連携や高価な自動化ツールがないと業務の効率化はできないと考えている人がいるかもしれませんが、それは間違いです。高価な専用ソフトは使いこなすまでに時間がかかり、結局「なぜその結果が出たのか」の検証に時間がかかることもあります。

むしろ、最も汎用的なエクセルを徹底的に磨き上げることこそが、最強の時短ツールになります。

4.1 エクセルを「考えるための道具」にする

エクセルの最大の利点は、自分の思考プロセスをそのまま数式に落とし込める柔軟性にあります。

たとえば、「現場で鉄筋が組めるか」「意匠の天井高に収まるか」といった、あなた自身が大切にしている「設計の勘所」をそのままルールとして組み込めます。二次部材の検討や、略算用のシートを整理しておくだけで、検討スピードは劇的に上がります。

また、過去の似たようなスパンや形式の検討を、5分で引き出せるようにテンプレート化しておくことも効率化につながります。それは、「過去の自分」から即座にアドバイスをもらえる環境を作るということです。

4.2 計算ミスを未然に防ぐ『違和感』の可視化

自作エクセルは、計算速度だけでなく、「自分の計算が間違っていないか」を自分自身で疑える仕組みを持てる点でも優れています。

例えば、 精緻な計算結果のすぐ横に、あえて「スパンの1/12」といった極めて単純な略算値を並べて表示させます。もし両者の数字が大きく乖離したなら、「入力ミス」か「モデル化の勘違い」が潜んでいることがわかり、「自分の感覚と計算結果のズレ」が視覚化されます。

また、 法規上の限界値だけでなく、「自分が危ないと感じるライン」を閾値として設定し、セルを色付けするようにします。そうすることで、ソフトが「OK」を出しても、自分のエクセルが「黄色信号(要検討)」を出すという二重のフィルターを持てることになります。

最新ツールを追いかける前に、手元のエクセルを見直すだけで、業務の3割は効率化できるはずです。

ストラボ小林
ストラボ小林
道具に振り回されることも非効率の原因の一つです。ベテラン設計者は経験則で仕事の8割を完成させ、残りの2割でその経験が合っているかどうかの確かめ算をしているにすぎません。ゴール予測をするために細かい100%の計算は必要ない。いかに早く、少ない手順でアタリをつけるか。細かい部分を削ぎ落し自分流にカスタマイズした武器はどんな最新ソフトよりも強いです。自分が何年もかけて改良してきたエクセルシートは、設計者の大切な財産になります。

5. まとめ|効率化の真意は、設計者としての「考える時間」を取り戻すこと

業務効率化の本当の目的は、単に楽をすることではありません。単純作業や不毛なやり直しを削ぎ落とし、「この建物はどうあるべきか」を考える、プロの本質的な仕事の時間を取り戻すことにあります。

ツールを嘆く前に、まずは明日から、計算ソフトにデータを打ち込む前に10分だけ手書きで構造計画図をスケッチし、手元のエクセルを少しだけ使いやすく整えてみませんか。その一歩が、あなたの設計者としての価値を高めてくれるはずです。

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監修者

小林 玄彦(こばやし はるひこ)
株式会社ストラボ 代表取締役

さくら構造株式会社の社長室室長として10年間、採用活動や評価制度の構築、組織マネジメントに従事。
オリジナル工法の開発やブランディングにも注力し、創業期から同社の規模拡大に貢献。
2024年に株式会社ストラボを創業し、構造設計者のための成長支援プラットフォーム「ストラボ」をローンチ。
構造設計者の社会的価値を最大化することを使命とし、構造設計業界や組織、そこで働く社員が価値観を共有し、他社との差別化を図ることで、構造設計者の価値を誇りをもって伝えられるようサポートしている。

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