
構造設計事務所に特化した経営支援サービス「ストラボgrowth」によるコンサルティングの支援事例をご紹介します。
クライアントの課題|事業拡大に必要な「優秀な構造設計者」が採用できない

従業員20名の構造設計事務所様の事例です。
クライアント企業は自社の堅調な事業拡大に伴い、組織強化のために優秀な構造設計者の採用を急務としていました。しかし、従来の「経験者」に絞った採用活動では、構造設計業界における採用競争の激化や、社会全体での景気減速の影響もあり、優秀な人材の確保が困難な状況が続いていました。
クライアント企業は「このままでは事業の成長が鈍化してしまう」という危機感を抱きつつも、経験者の採用活動に限界を感じたことから、ストラボへご相談いただきました。
ストラボのコンサルティング内容|ポテンシャル採用と「技術情報のナレッジベース化」

クライアント企業が限界を感じておられた既存の採用手法について、ストラボは採用方針の根本的な見直しをご提案しました。
採用:「ポテンシャルと熱意」重視の採用方針への転換
「経験」ではなく「ポテンシャルと熱意」を重視する採用方針への転換をご提案しました。まず、従来の採用方針で必須としていた条件をストラボと共に精査しました。そのうえでクライアント企業は鉄骨造(S造)・鉄筋コンクリート造(RC造)を主力としていることから重要視していた「両構造における即戦力性」を必須条件から外しました。
その代わりに、「入社後の育成と本人の学習意欲による補完を期待できるレベルの経験」を持つ人材までターゲットを広げる、具体的には「S造の実務経験はあるがRC造の経験は浅い」場合でも「RC造を学ぶ・挑戦する意欲」を評価して採用するなど「入社後の育成を前提とする」戦略へと転換しました。
さらに検討を重ねた結果、入社後の育成を前提にできるのであれば、採用ターゲットを従来の必須条件としていた「即戦力」から「実務経験が浅い、または意匠設計や設備設計など構造設計とは異なる分野の経験を持つ若手・異業種経験者」にまで広げることも可能であるという結論にいたりました。
この方針は「会社の文化にマッチし、長期的に貢献してくれる人材を、入社後に自社の教育システムで育成する」という戦略に基づき、従来の採用競争から一線を画すものとして、クライアント企業にご納得いただきました。
育成・知的資産:ベテラン技術のナレッジベース化
新たな採用方針と並行して、受け入れ側=教育体制の整備にも着手していただきました。クライアント企業にとって、創業者である社長やベテラン構造設計者の高度な技術やノウハウが属人化し若手への継承ができていないことは、慢性的な課題ではあったものの、明確な動機付けがなされないまま具体的な取り組みが後手に回っていたとのことでした。
これを解消するため、これから入社してくるポテンシャル層の育成を明確な目的として、以下の取り組みを経営層とストラボが中心となって設計し、トップダウンで優先的に実施しました。
STEP1.実施設計の「社長レビュー」を実施
創業者である社長が若手社員の設計図を定期的にレビューする機会を設けました。これにより、これまで社長の「知的資産」として頭の中に留まっていた高度な設計技術(設計の判断基準、難易度の高い事例の思考プロセスなど)を、組織全体で共有するための基盤を構築しました。
STEP2.社長レビューの記録・言語化
社長レビューの様子を録画し、再レビューを実施することで社長の頭の中の知的資産の見える化・言語化を進めました。さらに、ベテラン社員により、特に重要度の高い論点、繰り返し発生するミス、ケースバイケースの技術的解決策を、詳細に抽出・整理しました。
STEP3.ナレッジベース化による組織的な知識共有
記録・言語化された社長の設計技術を、クラウドツールを活用してナレッジベース化し、全社員がアクセスできる形で共有しました。これにより、若手設計者はOJT外でも自律的に業務を進められるようになり、構造種別の経験差にかかわらず技術レベルを向上させることができるようになりました。
また、定期的な知識共有会を開催して理解度を確認することで、一方的なインプットで終わらせない仕組みも導入しました。結果として、ベテラン社員が基礎指導に割く時間を大幅に削減できました。
コンサルティングの成果とその後|2年後に採用人数3倍!社内技術力の底上げも実現
ナレッジベース化は、重要だと認識しながらも、日常業務の負荷や緊急性の低さから長年着手できず、クライアント企業の慢性的な懸案事項となっていました。しかし、今回は「ポテンシャル採用と育成を成功させる」という明確な目的を掲げ、全社一丸のプロジェクトとしたことで、強力な推進力を生み出すことができました。
新しい育成体制の構築と運用開始にあたっては、社員の皆様から短期集中的にご協力いただき、積極的なリソース投入をいただきました。この投資が実を結び、ポテンシャル採用開始から約2年後には、以下のような具体的成果が現れました。

1.「ポテンシャル採用」が活性化し、採用人数が3倍に
「教育制度の充実」と「技術継承への真剣な取り組み」を採用情報の前面に打ち出すことが可能となり、ポテンシャル層に対し大きな安心感と魅力を提供できました。その結果、充実した育成環境に魅力を感じた成長意欲の高い若手人材の応募が増加し、それに伴って採用数も増加しました。
2.既存社員の技術・知識レベルが向上
属人化されていた技術やノウハウがナレッジベース化されたことで、既存社員も社長やベテランの設計思想や計算プロセスを深く理解できるようになり、技術・知識レベルの底上げに大きく貢献。属人化の解消と同時に、組織全体の技術力が向上しました。また、構造設計の「教える仕組み」が整ったことで、技術の継承が担保されたという確信をもって、育成を前提とした採用を本格化しました。
これにより、3年目以降も即戦力人材の採用競争に巻き込まれることなく、事業拡大に欠かすことのできなかった構造設計者の継続的な増員を実現することができました。
お客様の声
「これまでは、採用してもすぐに辞めてしまうのではないかという不安があり、結局即戦力の経験者採用にこだわってしまいました。しかし、ストラボさんと育成体制づくりに取り組んだことで、採用プロセスでも自信を持って『うちで育てます!』と言えるようになりました。実際に、応募者の数が劇的に増え、定着率も格段に向上しました。
また、元々の課題であった技術の継承が進み、『社長個人の知識・経験に依存する』という設計業務の属人化リスクが解消されました。その結果、私(社長)が構造設計業務から離れて経営に専念できるようになり、事業承継を意識する余裕まで生まれました。そして、会社の持続的発展に向けたこの明確な姿勢が、既存の中堅技術者やベテラン技術者に『将来にわたってこの組織で活躍できる』という安心感を生んだようで、非常に良い副産物となりました。」
ストラボgrowthは構造設計事務所に特化した経営支援サービスです。
経験豊富なコンサルタントが創業から、人事・組織、財務・会計、DX・情報戦略、さらには事業承継まで、経営戦略における幅広い領域を多角的に支援しています。
監修者

ストラボgrowthコンサルタント
酒井 和輝(さかい かずき)
さかいビジネスコンサルタント事務所代表
【資格】中小企業診断士、ITコーディネータ、SAP FI(財務会計)認定コンサルタント
メーカー系システム開発会社にてSEとして、オンライン制御システムや経済産業省ICカード実証実験におけるポイント管理システムなどを開発。2008年よりプライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(株)にて、経営システム導入や業務プロセス改善、新規事業立ち上げなどに従事。2018年に「さかいビジネスコンサルタント事務所」を設立。創業、経営改善、DX、事業承継、事業継続力強化など、多岐にわたるコンサルティングを提供。「プッシュ型事業承継支援高度化事業」「よろず支援拠点」「事業承継・引継ぎ支援センター」などの公的な経営相談員などを歴任し、経営者向けセミナー講師も多数務める。