
2026年2月3日、新潟県で雪の重みによって住宅やアーケードが倒壊する事例が発生しました。これらは近年の異常気象による「想定外のドカ雪」が引き起こしたものです。今後、建築基準法が想定していない規模の自然現象に直面する機会は、ますます増えていくでしょう。
こうした時代に、構造設計者はどう向き合うべきでしょうか。
構造設計には本来、その地域特有の要素を考慮し、配慮した設計が求められます。しかし、特定の地域の設計経験しかない設計者にとっては、未知の領域での判断は非常に難しいものです。
どのようにして、こうした構造設計の本質を磨いていけばよいのか。今回は構造設計歴20年のベテラン構造設計者に、気象条件、特に積雪に対する設計の向き合い方、反映すべき実務上の知見について聞きました。
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1. 「建築基準法を満たす」ことと、倒壊を防ぐことの距離
構造設計という仕事は、単に計算書を完成させて確認済証を得るための作業ではありません。自然現象という不確定なものに対して、「どの程度の負荷まで建物を耐えさせ、どのような壊れ方を許容するか」という技術的なクライテリア(判断基準)を決定するプロセスそのものです。
特に民間事業における設計の現場では、コストと安全性の狭間で「法規通りならよい(=最低限の基準を満たせば十分)」という空気に直面することも多いでしょう。
しかし、法規上の数値が現実の気象変動をカバーしきれなくなっている今、その「最低限」という言葉が抱えるリスクを、構造のプロとして正しく評価し、建築主に提示しなければならない場面もあり得ます。
2. いま求められる「合意形成」のスキル
今の設計者に求められているのは、数理能力以上に、リスクを可視化して建築主と合意を形成するスキルです。合意形成は、次のような具体的な「技術」として捉えるべきです。
・言語化の技術
専門用語を、事業継続性(BCP)や将来の修繕リスクといった建築主のメリットに「翻訳」して伝える。
・選択肢提示の技術
リスクとコストのトレードオフを可視化し、複数のプランから建築主に選択してもらう。
・エビデンス活用の技術
過去の雪害事例や地元の知恵を「客観的な根拠」として添え、説得力を持たせる。
3. ベテラン設計者に聞く!気象リスクの学び方&伝える技術
構造計算ソフトの普及・性能向上により数値上の整合性は容易に確認できるようになりましたが、実務上のリスク判断や合意形成のあり方は、依然として個々の設計者の経験に委ねられています。
第一線で実務をしてきたベテラン設計者の知見を、「雪」を例に深掘りしました。
Q1. 多雪地域特有の「設計慣習」はどのように学んだらよいですか?
A.やはり最初はデータを把握すること。地方行政の条例や審査機関の指摘事例、地方の研究機関や大学が出している論文などから地域の特性を把握することは基本です。近隣の建物の情報収集も欠かせません。
地場の業者から耳にする被害事例や独特の対策手法も重要な情報です。意匠設計事務所や建設会社、杭屋さんなどの意見も聞くようにしています。
Q2. 計算モデルと「現実の雪の挙動」の乖離をどう埋めたらよいですか?
A.埋めるべきは、モデルと挙動の乖離というより、荷重設定と実情の荷重の乖離という考え方の方が正しいでしょう。そこに大きな差があるから、積雪で建物が壊れるのです。
しかし、異常気象をすべて想定した設計をしようとすると、予算が跳ね上がり、そもそも建物を建てられなくなってしまう。構造設計の腕の見せ所は、単に建物を頑丈にすることではなく、安全性を確保しつつ限られた予算の中でいかにして施主の要望を叶えるか、という事に尽きます。
でも、雪は本当にむずかしい……!
異常気象を加味した対策は可能ですが、積雪荷重への実情的な配慮はなかなか難しいところです。同じ地域なのに数キロ離れただけで積雪が何メートルも違うとか、道路一本挟んだ向こう側では設計用の積雪荷重が法的に違うとか、設計者にとって頭の痛い問題です。
Q3. 気象リスクの指摘を、お客様から疎まれないようにするにはどうすればよいですか?
構造設計は安全性を高める提案はできますが、『経済的合理性』の壁を無視して、理想だけを押し通すことはできません。予算や躯体数量の適正な感覚を持たずに「近年の異常気象に備えて部材をもっと太くしましょう!」と主張するだけでは、単なる理想論として退けられてしまいます。
構造設計者に期待されている役割は、無駄な構造躯体を省き、余裕度の少ない部分に適切な部材を配置するなどして強い建物にすること。そして、建築主が納得してリスクを選択できるよう、判断材料を丁寧に整えることにあります。
コストとリスクのバランスが異なる複数の案を提示し、リスクの所在を可視化したうえで経営判断を仰ぐ。予算内で最大効率の安全を確保する代案を捻り出す。経済設計のもとに行われるこうした提案(合意形成)は建築主にとってありがたいアドバイスとなります。そのような設計姿勢は「誠実な設計者」という好印象に繋がるでしょう。
近年は震度6強以上の大規模地震も頻発しており、気象予測や自然災害対策が難しくなっています。想定を超える大雨洪水や大雪、台風なども増えています。
4. まとめ|自分の設計に責任を持つためのクライテリア設定を
「法規通り」という言葉は、倒壊が起きた際の免責を保証するものではありません。特に異常気象が常態化する中では、「なぜこの設計条件(クライテリア)で良しとしたのか」という設計者自身の判断の妥当性が厳しく問われます。
合意形成のプロセスを積み重ねることは、単なる交渉術ではなく、設計意図とリスクの所在を明確にし、設計者としての説明責任を果たすための、実務そのものといえます。自ら境界線を定義し、それを周囲と共有し続けることが、最終的に自分自身の設計判断の根拠を支えることになります。
ストラボでは今回のように、構造設計者が現場で直面するリアルな課題にフォーカスした情報をお届けしています。
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監修者

小林 玄彦(こばやし はるひこ)
株式会社ストラボ 代表取締役
オリジナル工法の開発やブランディングにも注力し、創業期から同社の規模拡大に貢献。
2024年に株式会社ストラボを創業し、構造設計者のための成長支援プラットフォーム「ストラボ」をローンチ。
構造設計者の社会的価値を最大化することを使命とし、構造設計業界や組織、そこで働く社員が価値観を共有し、他社との差別化を図ることで、構造設計者の価値を誇りをもって伝えられるようサポートしている。
