耐震構造とは?耐震設計と耐震等級を基礎から解説

建物は柱・梁・壁などの構造が荷重を負担し、初めて安全と機能を保てます。

人体でいえば骨格に相当し、台風や地震から建築を守る根幹です。

とくに地震多発国である日本では、耐震構造と耐震設計、そして耐震等級の正しい理解が欠かせません。

本記事では、「耐震構造とは何か」「耐震等級の違い」「強度型と靭性型の違い」「稀地震/極稀地震の意味」といった重要な疑問に、実務と法令の両面から一括で回答します。

安全性の基礎知識と、設計における判断基準を横断的に理解したい方は、ぜひご一読ください。

耐震設計で用いる地震動|稀地震と極稀地震

耐震設計では、地震発生時の建物の性能目標を二段階の地震動レベルで設定し、それぞれ異なる安全性を確保します。

このレベルは、私たちがニュースなどで聞く気象庁の「震度」とは直接対応するものではなく、あくまでも「人命保護」と「機能継続」のバランスを取るために設計上で定める架空の揺れの強さです。

稀に発生する地震(稀地震:中規模)

目標性能:主要構造部に損傷が生じにくい(機能継続を想定)。

設計基準:供用期間中に数回起こり得るレベルの揺れに対し、層間変形や応力を抑え、大規模修復を要さないことを狙います。

極めて稀に発生する地震(極稀地震:最大級)

目標性能:倒壊・崩壊等しない(人命保護)。

設計基準:数百年に一度程度の頻度とされる最大級の揺れに対し、大きな損傷は許容され得るものの、倒壊や外装の致命的脱落を防止します。地震後は立入制限や復旧計画を前提にします。

ポイント: 法令は社会的最低水準を示します。建物の用途やBCP(事業継続計画)の要件に応じ、どこまで機能維持を求めるかは、建築主と設計者の合意により上乗せが可能です。


<参考>
国土交通省「構造の安定に関すること(住宅性能表示:概説)」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/hinkaku/point/2_1.pdf 国土交通省

国土交通省「新築住宅の住宅性能表示制度ガイド」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/hinkaku/070628pamphlet-new-guide.pdf 国土交通省

内閣府「令和6年版 防災白書(被害の概要)」
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/r06/honbun/t2_1s_02_00.html 防災ポータル

総務省 統計ポータル e-Stat「災害統計」
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001024237 e-Stat

耐震等級の基準と違い:倒壊防止の相対評価

耐震等級は、住宅の倒壊等防止極稀地震に対する安全性)のレベルを示す、住宅性能表示制度における重要な指標です。

この評価は、以下の二段階の地震動のうち、極稀地震に対する強さを相対的に示します

  • 損傷防止(稀地震):地震後に大規模な修復を必要とする損傷(ヒビ割れなど)が生じにくいこと。建物の機能継続の目安となります。
  • 倒壊等防止(極稀地震):建物が倒壊・崩壊しないこと。この人命保護の度合いを、耐震等級1〜3という相対的な指標で評価します。

倒壊等防止の耐震等級

  • 等級1:基準法レベル(設計用地震力で倒壊等しない
  • 等級2:等級1の1.25倍に対して倒壊等しない
  • 等級3:等級1の1.5倍に対して倒壊等しない

【一級建築士が解説】耐震性能の高い家を建てるために必要な建築知識|耐震基準と耐震等級
https://tsuyoku.jp/taishinseinounotakaiie/

耐震等級は、設計用地震力に対する相対的な強さを示すものであり、特定の震度と固定的に対応するものではありません。

震度と等級が直結しない点にご留意ください。

<参照>
国土交通省「構造の安定に関すること(住宅性能表示:概説)」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/hinkaku/point/2_1.pdf

国土交通省「長期優良住宅認定制度の概要」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001750682.pdf

一般社団法人 住宅性能評価・表示協会「耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)」
https://www.hyoukakyoukai.or.jp/kokai/h25/kyodo_1-1.html

耐震構造の考え方|強度型と靭性型のちがい

耐震構造の設計方針は、地震のエネルギーをどのように受け流すかによって、大きく強度型と靭性型に分けられます。建物の用途や階数、求められる復旧性能に応じて、これらのタイプを単独または組み合わせて採用します。

強度型:変形を小さく抑える“硬く強い”設計

弾性域中心の応答を目指し、耐震壁・ブレース等の剛強要素で層間変形角を抑え「硬く強い」設計です。

  • 向く条件:低〜中層、仕上・設備の損傷を極力避けたい、揺れに弱い機器が多い等。
  • 構成例:RC耐震壁(連層)+ラーメン/SのX・Kブレースや座屈拘束ブレース(BRB)/SRC柱で層変形を管理。
  • 長所:層間変形・残留変形が小さく復旧容易。
  • 注意点:応答加速度が大きめ(上階で小刻みな揺れ)。偏心・ねじれを招かない平面・立面バランス、壁開口部の境界要素等の細部設計が肝。

靭性型:塑性化を制御して“粘りで耐える”設計

部材をあえて損傷させ(塑性化)、その損傷部(主に梁端の塑性ヒンジ)でエネルギーを吸収しながら、倒壊は防ぐ「粘りのある」設計です。

  • 向く条件:中高層のラーメン主体、開放性・可変性優先、改修で壁増設が難しい。
  • ディテール例強柱弱梁のキャパシティデザイン、接合部パネルゾーンのせん断余裕、RCの帯筋拘束やS梁の局部座屈抑制。
  • 長所:加速度応答が緩和しやすく、平面自由度が高い。
  • 注意点:層間変形・残留変形が大きめ。二次部材(天井・間仕切・配管)の損傷対策、弱層(ソフトストーリー)の回避が前提。

方針選定の考え方(新築・耐震改修で共通)

  • 用途×BCP要件

用途

重視する項目

方針

病院・庁舎・
データセンター

機能継続

強度型寄り
(必要に応じ制震併用

共同住宅・オフィス

人命保護+早期復旧

強度型と靭性型のハイブリッドが通例

  • 構造種別適性
    RC=壁+フレーム併用が容易
    S=ブレースで強度型・ラーメンで靭性型(BRBで安定塑性)
    SRC=柱靭性が高く中高層向き

  • 形状バランス
    重心・剛心のずれ最小化、耐震要素の連層配置、途中階だけの急激な剛性変化は避ける

  • P-Δ(2次効果)・弱層の抑制
    スレンダーな架構やピロティ階では安定余裕を確認

  • コスト・工期・運用
    新築は初期投資+維持で最適化
    耐震改修は居ながら施工の可否や営業損失も含めて判断

耐震設計は「絶対壊れない建物」を作ることではなく、「どの地震段階で何を守るか(人命・機能・資産)」を建築主と合意し、強度型/靭性型の組み合わせを最適化するプロセスです。

<参考>
防災科研「J-SHIS 地震ハザードステーション」
https://www.j-shis.bosai.go.jp/ j-shis.bosai.go.jp

防災科研「強震観測網(K-NET/KiK-net)」
https://www.kyoshin.bosai.go.jp/kyoshin/ kyoshin.bosai.go.jp

日本建築学会(AIJ)「鉄筋コンクリート造建物の靱性保証型耐震設計指針・同解説(関連情報・正誤表ページ)」
https://www.aij.or.jp/books/errata.html aij.or.jp

まとめ|「壊れない」だけでなく必要な耐震構造を

耐震設計を行ったからといって、建物がどんな巨大地震でも絶対に壊れないわけではありません。

法令上の耐震等級はあくまで最低基準であり、想定外の地震の可能性も残ります。

経済的かつ効率的な耐震設計を行ううえで重要なのは、どの地震段階で何を守るか(人命・機能・資産)を建築主と設計者が共通認識をもち、強度型/靭性型の組み合わせを最適化すること。
そして適法性を出発点に、技術と配慮で品質を上積みすることが経済的で効率的な耐震設計の近道です。

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監修者

小林 玄彦(こばやし はるひこ)
株式会社ストラボ 代表取締役

さくら構造株式会社の社長室室長として10年間、採用活動や評価制度の構築、組織マネジメントに従事。
オリジナル工法の開発やブランディングにも注力し、創業期から同社の規模拡大に貢献。
2024年に株式会社ストラボを創業し、構造設計者のための成長支援プラットフォーム「ストラボ」をローンチ。
構造設計者の社会的価値を最大化することを使命とし、構造設計業界や組織、そこで働く社員が価値観を共有し、他社との差別化を図ることで、構造設計者の価値を誇りをもって伝えられるようサポートしている。

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