耐震構造・制震構造・免震構造の違いをやさしく比較解説

建物の骨格である構造は、台風や地震など外力から建物と人命を守る根幹です。地震対策としては、揺れに耐える「耐震構造」、揺れを吸収する「制震構造」、揺れを建物に伝えにくくする「免震構造」の3つが代表的な地震対策です。本記事では、それぞれの仕組みと効果、メリット・デメリットを分かりやすく比較解説し、既存建物の耐震改修で最適な方式を選ぶための判断材料を提供します。

耐震・制震・免震構造のメリット・デメリット

耐震構造・制震構造・免震構造の仕組みとそれぞれの特徴を以下の表にまとめました。

仕組み

主な特徴

採用されやすい用途

耐震構造

柱・梁・壁など構造体そのものの強さと靭性で地震力に抵抗

①汎用性が高い
②工期・コストを抑えやすい ③設計自由度を確保しやすい

①上階ほど揺れが大きくなりやすい
②家具転倒リスク
③強い反復地震で損傷蓄積

免震構造

ダンパー等の装置で地震エネルギーを吸収

①揺れの低減
②構造体の損傷抑制
③風揺れ対策にも有効

①装置の種類・配置・数量にノウハウ要
②地盤条件の影響

免震構造

基礎と上部構造の間に免震装置を入れ入力を大幅低減

①上部の揺れが小さい
②室内損傷・家具転倒を抑制

①初期コストが高め
②クリアランス確保など計画制約
③装置の維持管理が必要

既存の建物でも、制震改修免震レトロフィット(後付け免震)によって耐震性能を大幅に向上させることが可能です


<参照>内閣府 防災白書「住宅・建築物の耐震化が命を救う」
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h17/bousai2005/html/honmon/hm100300.htm

耐震構造|構造体を強くし、揺れに“耐える”

耐震構造は、建物自体を頑丈にし、柱や梁、耐力壁などの構造体で地震力に対抗する設計手法です。

現行の建築基準法(1981年新耐震基準以降)では、主に以下の2つの安全水準が求められています。

1)「稀に発生する地震」
 :建物の損傷を防止する。

2)「極めて稀に発生する地震」
:建物の倒壊・崩壊を防止し、人命を守る。
(※施行令第88条第3項相当)

大地震時でも、耐震構造では構造部材に損傷や変形が生じることを許容して倒壊を防ぎます。

そのため、BCP機能継続が必須の建物では、後述の制震免震を検討することが有効です。


<参照>国土交通省「構造の安定に関すること(極めて稀な地震=施行令88条3項)」PDF 
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/hinkaku/point/2_1.pdf

制震構造|揺れを“吸収”し、損傷を抑える

揺れを「吸収」し被害を抑える制震構造は、建物内部にダンパー(鋼材、粘弾性など)といった制震装置を設置し、地震のエネルギーを熱などに変換して吸収します。

これにより、建物の揺れが低減され、柱や梁といった構造体の損傷抑制、さらに居住者の体感的な揺れを抑える効果があります。

高層ビルや既存建物への制震改修で広く採用されており、効果の最適化には専門的な地震応答解析が不可欠です。

<参照>日本建築学会「耐震構造の設計(免震・制振の概要章を含む)」PDF
https://kanto.aij.or.jp/images/news/book/332-8003.pdf

免震構造|基礎で揺れを“絶縁”する

免震構造は、基礎と上部構造の間に積層ゴム支承などの免震装置を設置し、地震の揺れを建物に直接伝えにくくする(アイソレーション)技術です。

これにより、上部構造の揺れ(加速度)を大幅に低減できます。

特に、病院データセンターなど機能継続(BCP)が最重要視される施設に有効であり、室内の機器・什器の被害を抑制できます。

ただし、初期コストが高く、装置の周囲にクリアランス(隙間)の確保が必須となる点に注意が必要です。

免震レトロフィットという後付け改修も検討可能です。


<参照>日本建築学会「免震構造設計指針」
https://www.aij.or.jp/books/categoryId/689/productId/590132/

地震時の建物の「揺れ方」イメージ比較

  • 耐震:地盤の揺れに建物が追随し、共振で特に上層階で揺れが大きくなる傾向がある。

  • 制震:ダンパーが揺れを吸収し、共振による揺れのピークを抑制する。

  • 免震:基礎部分で揺れの入力を大きく減らし、建物上部の加速度を大幅に低減する。(家具転倒リスクも抑制する。


<参照>国土交通省「構造の安定に関すること(耐震設計の二水準の考え方)」PDF 
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/hinkaku/point/2_1.pdf

【用途別】最適な耐震・制震・免震の選び方

前提:延床5,000–20,000㎡(中規模)/竣工1982–2000年/都市部・中硬質地盤
評価軸の考え方:導入のしやすさ(工期・施工性・計画制約)と効果(揺れ低減・損傷抑制・機能継続)の総合判断

(◎=強く推奨/○=推奨/△=条件次第/×=非推奨)

用途

耐震

制震

免震

備考

共同住宅

居ながら改修を重視。制震は室内被害の抑制と居住継続に相性良。免震は敷地のクリアランス確保が課題。

病院

機能継続・BCP最優先。免震で医療機器・ライフラインの安定に寄与。免震ピット・クリアランス等の計画要件あり。

学校

授業継続性とコストバランスから耐震が主。制震は天井・什器被害の低減に有効。免震は敷地・工期制約に注意。

オフィス

テナント稼働・BCP・上層の揺れ対策に制震が効果的。用途・高さ次第で免震も有力。

工場

大スパン・設備稼働を考慮し制震が現実的。免震は機械基礎・動線との整合が条件。

倉庫

ラック転倒・荷役の安定性から制震が有利。免震はコストメリットが出にくい。

商業施設

営業継続と内装・什器被害の抑制で制震が効きやすい。免震は大規模再開発で選択肢。

庁舎

災害対策拠点として、耐震+要件に応じ制震/免震を併用検討。BCP要件で免震採用例あり。

最終的な方式の決定は、必ず耐震診断および地震応答解析に基づき、建物の状態や地盤条件、BCP要件を数値で評価した上で行ってください。特殊な条件(免震クリアランス不足、液状化リスクなど)がある場合は評価が変わるため、専門家への相談が不可欠です。

<参照>防災科研「J-SHIS 地震ハザードステーション」 
https://www.j-shis.bosai.go.jp/

建築基準法は最低基準|耐震改修以上の対策

建築基準法に基づく耐震設計は、「人命を守るための最低限の安全水準」を確保するものです。建築基準法に適合していても、建物が無損傷であることや、地震後の機能継続(BCP)までは保証していません。 求める安全レベル(重要設備の保全、内装被害の抑制、業務継続など)に応じて、耐震・制震・免震を組み合わせて最適化することが重要です。

一次設計・二次設計の役割

  • 一次設計:許容応力度等で損傷防止を確認(層間変形角の制限:施行令82条の2 ほか)

  • 二次設計:保有水平耐力≧必要保有水平耐力 等で倒壊防止を確認(施行令82条の3)

「極めて稀な地震」は施行令88条3項に相当する力と整理されます(震度の表現は目安です)。


<参照>
「建築基準法施行令 第82条の2(層間変形角)」解説 
https://kenchiku-kouzou.jp/houki/kouzoukeisan/soukan-henkeikaku/

「建築基準法施行令 第82条の3(保有水平耐力)」条文 
https://lawzilla.jp/law/325CO0000000338?mode=only&n=ln82_3

「建築基準法施行令 第88条(地震力)」条文 
https://lawzilla.jp/law/325CO0000000338?mode=only&n=ln88

国土交通省「構造の安定に関すること(極めて稀=令88条3項)」PDF 
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/hinkaku/point/2_1.pdf

既存建物で最適な対策を選ぶための費用対効果と工期の目安

  • 戸建・小中規模共同住宅
    まず耐震診断で現状を把握し、耐震補強を基礎とする。追加で制震を導入することで、室内被害や居住者の不安を抑制できる。

  • オフィス・病院・データセンター等
    BCPや機能継続が最優先。免震または高性能制震が有力な選択肢となる

  • 既存RC・S造の中大規模
    制震改修は、工期と費用対効果のバランスが最も取りやすい選択肢。重要度の高い施設や、高度な機器保全には免震レトロフィットも検討可能。

<参照>内閣府 防災白書「住宅・建築物の耐震化が命を救う」 
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h17/bousai2005/html/honmon/hm100300.htm

まとめ|最適な耐震改修は耐震診断から

耐震・制震・免震は、「耐える」「吸収する」「絶縁する」という異なるアプローチを持ち、それぞれコストや工期、地震後の被害レベルに差が出ます。

建築基準法は人命を守る最低限の基準であり、機能継続(BCP)を目指す場合は、制震改修や免震レトロフィットを視野に入れる必要があります。

建物の用途、地盤、BCPの要件(機器保全、什器転倒リスクなど)を踏まえ、耐震診断や地震応答解析により、最適な方式の費用対効果を数値で比較し、判断することが極めて重要です。

構造設計に関する学びやキャリアアップの情報は、構造設計者のための成長支援プラットフォーム「ストラボ」に会員登録すると無料でお届けします。

監修者

小林 玄彦(こばやし はるひこ)
株式会社ストラボ 代表取締役

さくら構造株式会社の社長室室長として10年間、採用活動や評価制度の構築、組織マネジメントに従事。
オリジナル工法の開発やブランディングにも注力し、創業期から同社の規模拡大に貢献。
2024年に株式会社ストラボを創業し、構造設計者のための成長支援プラットフォーム「ストラボ」をローンチ。
構造設計者の社会的価値を最大化することを使命とし、構造設計業界や組織、そこで働く社員が価値観を共有し、他社との差別化を図ることで、構造設計者の価値を誇りをもって伝えられるようサポートしている。

関連記事一覧