構造設計は、関わる建物の規模や業務の内容によって、必要な資格がまったく変わってきます。「とりあえず一級建築士があれば大丈夫?」「構造設計一級建築士がないと仕事にならない?」――現場でもよく聞かれる疑問です。
この記事では、無資格で対応できる範囲から、一級建築士・構造設計一級建築士それぞれの役割、さらに資格が年収やキャリアにどう影響するかまで、実務目線で整理してお伝えします。
構造設計は無資格でもできる?
無資格者でも、建築士の指揮・監督のもとで補助業務に関わることは一般に想定されています。ただし、資格者の関与が必要な設計業務を無資格者が単独で完結させることはできません。
なぜかというと、構造設計に関わる国家資格(建築士)のほとんどが「取得前に実務経験を積む」ことを前提にしているからです。
つまり、無資格の段階でも現場で経験を積むことが、制度上ちゃんと想定されているわけです。
ただし、注意してほしいのがここ。無資格者が作成した設計図を、有資格者の確認・署名なしに納品することは違法になります。
あくまで有資格者が責任者として監修・押印するのが大前提で、補助としての関与はOKでも、自分の判断だけで完結させる設計業務は無資格ではできません。
設計事務所に入社したばかりの方から「無資格だと何もできないんですか?」と聞かれることがあります。
そんなことはないんですが、どこまでが補助でどこからが独立した設計業務なのか、その線引きはきちんと知っておく必要があります。
また、構造設計と構造計算の違いを押さえておくと、どこまでが補助業務でどこからが責任を伴う設計業務なのかが理解しやすくなります。
無資格で対応できる業務範囲
具体的に、無資格でも関われる業務はどのあたりになるのでしょうか。現場の実態を踏まえると、おおよそ以下のように整理できます。
対応できること
- 構造計算の補助(有資格者の指示のもとで計算を進める)
- 構造図の作成補助(チェックは有資格者が行う)
- 資料収集・整理、計算書の入力作業
- 構造計算ソフトへのデータ入力・出力整理
対応できないこと
- 建築確認申請に用いる構造図・計算書への記名・押印
- 構造設計者としての法的責任者業務
- 構造設計一級建築士が必要な適合性確認業務
要は、「有資格者の監督下での補助」はOK、「自分の責任で完結させる設計」はNGというイメージです。
特に建築確認申請まわりの業務は、無資格者が関われる範囲が明確に限られています。
実務では、入社したての頃は先輩の一級建築士の監督のもとで計算補助を担い、数年かけて経験を積みながら資格取得を目指すというルートが一般的です。
設計事務所によっては、資格取得を支援する勉強会や費用補助を設けているところも少なくありません。
一級建築士とは?構造設計で必要になるケース
一級建築士は、国土交通大臣免許を受けた国家資格で、構造設計の世界でいわば”基本ライン”となる資格です。規模を問わずほぼすべての建築物の設計・工事監理を担える点が強みで、構造設計を本職にするなら、まずここを目指すのが王道のルートと言えます。
一級建築士が必要になる主な場面
建築士には一級建築士・二級建築士・木造建築士の3種類がありますが(上位資格の構造設計一級、設備設計一級を除く)、設計できる建物の規模・構造に明確な差があります。
二級建築士では手がけられない規模の案件が、一級建築士なら対応できるようになります。
構造設計の専門家として長くキャリアを積むなら、一級建築士は”持っていて当然”の資格と見なされていることがほとんどです。
- 建築確認申請への記名・押印
- 構造図・計算書の法的な責任者として
- 中規模以下の建物における構造設計全般
一級建築士の受験資格
令和2年の建築士法改正で、実務経験は「受験要件」から「免許登録要件」へと変わりました。
以前は受験する前から実務経験が必要でしたが、今は試験合格後に免許登録のタイミングで実務要件を満たす形になっています。
大学卒であれば2年以上、短大(3年制)卒であれば3年以上、短大(2年制)・高専卒であれば4年以上の実務経験が、免許登録の条件です。
この改正によって、学生のうちから試験勉強を始め、卒業後すぐに受験できるようになりました。
早期取得を狙うなら、在学中から計画的に準備を進めておくとよいでしょう。
構造設計一級建築士が必要になるケース
一級建築士は幅広い構造設計業務に関与できますが、一定規模以上または一定の高度な構造計算を要する建築物では、構造設計一級建築士の関与が必要になる場合があります。
どんな建物が対象になるのか
平成18年の建築士法改正以降、以下の建物については構造設計一級建築士の関与が義務付けられています。
- 高さ60mを超える建築物
- ルート2・ルート3・限界耐力計算が必要な、高さ60m以下の建築物
対応は2つのパターンがあり、
①構造設計一級建築士が自ら直接設計を行うか
②一級建築士が設計した内容について構造設計一級建築士が「構造関係規定への適合性確認」を行うか
どちらかが必要です。この確認がなければ建築確認申請は受理されません。
現場でよくあるのが、「一級建築士の資格だけで確認申請まで進めようとしたら、審査機関から適合性確認が必要と指摘された」というケースです。
対象建物の判断は事前にしっかり確認しておくことが大切で、特に中規模以上の案件では早い段階で構造設計一級建築士との連携を前提に動くのが現実的でしょう。
関与が不要なケース
中小規模の建物で、構造安全性の確認が比較的シンプルな場合は、一級建築士のみで設計が完結します。
ただ実務の現場では、意匠・構造・設備の分業が進んでいるので、案件の難易度に関わらず構造設計一級建築士の存在が重宝されることは多いです。
構造設計一級建築士を取得するには
構造設計一級建築士になるためには、以下の2つをクリアする必要があります。
- 一級建築士として5年以上の構造設計実務経験を積む
- 国土交通大臣の登録を受けた機関による講習を修了し、修了考査に合格する
簡単に取れる資格ではありません。
それだけに、取得すると業界内での信頼度は格段に上がります。
5年以上の実務を重ねた上でようやく挑戦できる資格ですから、早いうちから逆算してキャリアを設計しておくことが重要です。
資格取得で広がるキャリア
「資格がなくても現場で働けるなら、急いで取らなくてもいいのでは?」という考え方もあります。
短期的には一つの選択肢かもしれませんが、長期で見ると資格の有無でキャリアの幅が大きく変わってきます。
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資格 |
短期メリット |
長期メリット |
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無資格 |
補助業務で実務経験が積める |
キャリアの天井が低くなりやすい |
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一級建築士 |
資格手当・転職市場での評価アップ |
独立開業・幅広い案件対応が可能に |
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構造設計一級建築士 |
専門性の証明・年収交渉で有利 |
高難度案件への参画・社会的信用の向上 |
転職市場の実態を見ると、一級建築士の有無によって求人の選択肢がかなり変わります。
また構造設計一級建築士を持っている場合、年収交渉でも有利になりやすく、独立して案件を受注する際の信頼の担保にもなります。
年収への影響という点では、資格手当として月額数万円が支給される事務所も珍しくありません。
構造設計一級建築士ともなると、さらに上乗せされるケースもあります。
取得にかかる勉強時間・費用と照らしても、長期的なリターンは十分に見込めるでしょう。
実際に転職を考え始める際は、資格の有無だけでなく、求人票の見方や転職活動の進め方を知っておくことも重要です。
転職のリスクや進め方が気になる方は、「建築士の転職活動はノーリスク!失敗しない準備とキャリアを広げる方法」も参考にしてください。
また、独立を考えているなら、構造設計一級建築士の資格を持っていることは、独立後に高難度案件や一定規模以上の案件まで扱う際の大きな強みになります。
クライアントや元請けの設計事務所から見ても、「構造設計一級建築士がいる」というのは信頼を示す一つの基準になっているからです。
さらに専門性を示す資格
一級建築士・構造設計一級建築士の先にも、専門家としての信頼を高める資格があります。ここまで取れると、業界内でも相当な存在感を発揮できます。
構造計算適合性判定資格者
大規模・中規模建物の構造計算が適正かどうかを審査する専門家です。
審査業務に携わるには、構造計算適合性判定資格者検定に合格し、国土交通大臣の登録が必要になります。
取得要件は以下のとおりです。
- 一級建築士資格を保有していること
- 構造設計業務や確認審査業務など、合計5年以上の実務経験を有すること
「設計する側」ではなく「審査する側」として構造の安全性を守る立場であり、設計者とは異なる形で業界に貢献できるポジションです。
JSCA建築構造士
一般社団法人日本建築構造技術者協会(JSCA)が認定する資格で、構造設計一級建築士の中でも特に幅広い知識と実務経験を持つ技術者であることを証明します。
構造計画の立案から設計図書の作成、構造分野の工事監理の統括まで担えることが認定の条件で、業界内での評価は非常に高い資格です。
取得要件は以下のとおりです。
- 構造設計一級建築士資格を保有していること
- 責任ある立場での構造設計実務経験が2年以上あること
- 構造監理業務の実務経験を有すること
構造設計一級建築士よりもさらに絞られた資格ですが、取得することで「業界のトップ層」として認知されるレベルの信頼を得られます。
独立後の受注にも、採用市場においても、持っているだけで一目置かれる存在になれるでしょう。
まとめ:資格と業務範囲
改めて整理すると、このようになります。
- 無資格でも補助業務なら関われる。ただし責任者としての設計業務はNG
- 一級建築士があれば、ほぼすべての建物の構造設計に携われる
- 構造設計一級建築士は、一定規模以上の建物で必須。独立・高難度案件にも直結する
- JSCA建築構造士・構造計算適合性判定資格者は、さらに高度な専門性の証明になる
構造設計のキャリアは、資格の取り方ひとつで広がり方がまるで変わります。
「今は無資格でもいい」という段階でも、どのタイミングでどの資格を取るかを早めに意識しておくと、後々のキャリア設計がずっと楽になります。
資格取得やキャリアの方向性について迷っている方は、ぜひストラボへご相談ください。
構造設計者専門の転職支援「ストラボnavi」や、副業・独立をサポートする「ストラボpartner」など、あなたのステージに合わせたサービスを提供しています。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 無資格の状態で構造設計事務所に就職できますか?
できます。多くの構造設計事務所では、無資格者を採用して実務を通じて経験を積ませながら、資格取得を支援するスタイルをとっています。入社後に一級建築士の取得を目指すキャリアパスは一般的です。ただし、採用条件として「一級建築士取得見込み」や「建築系学科卒」が求められるケースも多いため、求人票の要件は事前に確認しておきましょう。これから構造設計の仕事に入りたい方は、未経験からどのように実務へ入っていくのかを整理した記事も参考になります。
Q2. 構造設計一級建築士を取るには、どれくらいの期間が必要ですか?
最短でも一級建築士取得後5年以上の実務経験が必要なので、ゼロからのスタートであれば資格取得まで10年程度かかる場合もあり、長期的な計画が必要です。大学卒業→実務2年→一級建築士取得→実務5年→構造設計一級建築士、という流れが標準的なルートです。早期取得を目指すなら、在学中から計画的に動き始めることが大切です。
Q3. 二級建築士でも構造設計はできますか?
二級建築士でも、補助業務や、法令上認められた範囲の建築物であれば設計等に関わることができます。ただし、扱える建築物の規模・構造には制限があるため、構造設計を専門キャリアとして積みたいなら、一級建築士の取得も視野にいれることをおすすめします。
Q4. 意匠設計と構造設計、どちらで一級建築士を活かすほうが有利ですか?
どちらの分野でも一級建築士は有効ですが、構造設計においては「資格の希少性」が年収や転職に直結しやすい傾向があります。特に構造設計一級建築士まで取得すると、意匠系よりも専門性で差別化しやすく、独立後の単価にも反映されやすいです。
Q5. 構造設計一級建築士がいる事務所といない事務所では、受注できる仕事に違いがありますか?
明確に違います。ルート2以上の構造計算が必要な建物では、構造設計一級建築士の関与が法律上必須です。そのため、社内に資格者がいない場合は、外部の有資格者と連携できる体制が必要になります。事務所の規模拡大や受注の幅を広げる観点からも、構造設計一級建築士の在籍は大きなアドバンテージになります。
Q6. 資格を持たずに独立することは可能ですか?
建築士事務所を開設するには、管理建築士として一級または二級建築士の資格が必要です。つまり、無資格での独立開業は法律上できません。フリーランスとして補助業務を請け負う形であれば資格なしでも可能ですが、責任者として案件を完結させるには資格取得が前提になります。
監修者

小林 玄彦(こばやし はるひこ)
株式会社ストラボ 代表取締役
オリジナル工法の開発やブランディングにも注力し、創業期から同社の規模拡大に貢献。
2024年に株式会社ストラボを創業し、構造設計者のための成長支援プラットフォーム「ストラボ」をローンチ。
構造設計者の社会的価値を最大化することを使命とし、構造設計業界や組織、そこで働く社員が価値観を共有し、他社との差別化を図ることで、構造設計者の価値を誇りをもって伝えられるようサポートしている。

